ゾーンディフェンス(ゾーンプレス)のセオリーとは何か?

さて、今回はいつもと少し違って、専門的な話になります。

これまで岡田ジャパンのサッカーは、「プレス」ではなく「チェイス」と盛んに書いてきたわけですが、今回はそれについて詳しく説明したいと思います。
それもこれも、その説明をするのにちょうどよい本が先日発売されたからであります。

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手前味噌ではありますが、私が編集に携わった『図解 イタリアの練習』(東邦出版)。
監修者は、イタリア国内では若手の育成に定評のあるエンポリFCのU15監督ミルコ・マッツァンティーニ氏と、同じくU13監督シモーネ・ボンバルディエーリ氏(構成は宮崎隆司氏)。

この本は、イタリアで将来を嘱望されている指導者の2人が実際にクラブで実践している244ものトレーニングメニューがぎっしりと詰まった一冊で、指導者向けの実用書になっています。

しかしながら、この本の巻頭を読んだ上で、さらにいくつかのトレーニングメニューを見てみると、きっと「なるほど!」と思っていただけるのではないかと思います。

話は、そもそも「プレス」とは何かというところから始まります。
この本にも書かれていますが、簡単に言えば、ゾーンプレスは当然ながらセオリーに則ったチーム戦術の一つで、そのセオリーの柱となるのが、「ディアゴナーレ」、「スカラトゥーラ」と言われる基本の動きになります。

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詳しくはこの本を読んでいただくとして、つまるところ、「プレス」は闇雲にボールや相手を追いかける(チェイスする)ことではなく、ディアゴナーレ、スカラトゥーラの連続によって初めて機能する戦術なのです。

この革命的戦術を発明したのは、ご存知イタリアの名将アルーゴ・サッキ氏。
以降、世界的に「ゾーンディフェンス」がサッカーの主流になったわけですが、現在強豪と言われるチームは、この応用、派生ということになります。

よって、基本は同じです。ディアゴナーレ、スカラトゥーラをいかにアレンジするかという工夫によって、バルセロナのサッカーや、マンUのサッカーも完成したわけです。

だとすれば、岡田ジャパンのサッカーは何ぞや?
あの規律(セオリー)なきチェイシングは、プレスと呼べるシロモノなのか?

おそらく、ヨーロッパの指導者から見れば、あのサッカーは穴だらけ、スペースだらけのセオリー無視のスタイルと言われてしまうことでしょう。

もちろん、セオリー無視でもその戦術が理にかなっていれば問題はないことです。
ところが、岡田ジャパンのサッカーは、まったく理に叶っていないのが厳しいところです。
弱い相手には通用するが、同等もしくは格上の相手にはまったく機能しない理由は、そこにあります。

セオリーを知っている相手にしてみれば、あのサッカーは冷静に対処すれば穴だらけの非常識かつ無謀なスタイルなのです。
以前のヴァンフォーレのように、J2では画期的な部分がありますが、さすがに百戦錬磨の世界が相手となれば通用するわけがありません。
岡田監督は、コンフェデで大健闘したアメリカのサッカーを、もう一度よく見てみる必要があるでしょう。

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ヨーロッパでは、このエンポリだけでなく、ほとんどの国のユース世代の選手が、サッカーにおける個人戦術を学んでいます。
その中で、やはりゾーンディフェンスのセオリーも当然ながら身につけているわけで、逆にアタッカーの選手たちは、そのゾーンのセオリーをどうやったら破れるのかを学んでいるのです。

この本の練習メニューを見ていただければ、それが手にとるようにお分かりになるかと思います。
どうやってゾーンの基本をトレーニングから学び、どうやってそれをチーム戦術に昇華させるのか。
まだ歴史の浅い日本では、ほとんど初輸入といっても良いほどのトレーニングの数々です。

岡田監督が、このセオリーを知っていてあのサッカーを実践しているのかどうかは本人に聞いてみなければ分かりませんが、これまでの岡田ジャパンのサッカーを取材している限りでは、少なくともそのセオリーは選手には伝わっていないことは間違いないと断言できます。

この本にある「プレス」の基礎を知れば知るほど、岡田ジャパンの中盤や最終ラインの大きなミスが目について仕方がありません。
あまり専門的にしてサッカーを難しいものにはしたくないのですが、基本さえつかめば、きっとサッカーを見る目が変わるはずです。

その視点でJリーグを見てみれば、なぜ鹿島が安定したサッカーを実践出来ているのかがよく分かると思います。
そこには、しっかりとしたセオリーが存在し、また、それをオリヴェイラ監督が鹿島風に時間をかけて昇華させていることがよく分かります。
残念ながら、他のチームにはまだそれが見えません。去年のグランパスにはそれが少しあったのですが……。

最後に話がそれましたが、とにかく、だから岡田ジャパンは来年のワールドカップで勝てないと思うのです。
つまるところ、勝てる根拠は見当たらないが、勝てない根拠は確実に存在しているということです。


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この記事へのコメント

2009年09月25日 07:34
イタリアン4-4-2システムを知らない、
あるいは勉強していない
プロの指導者はいないでしょう。
リトリート型のイタリアンゾーンプレスが
最強でないことは、
ユーロでもコンフェデでも
実証されたのではないでしょうか?
前線からのプレスを敢行すれば、
後方に穴ができるのは必然ですし、
スタミナも後半まで持たないかもしれません。
しかしそれでも、日本代表が
得点機会を増やすには、
現時点では、あの戦術だと思うのです。
ヨーロッパと同じやり方では、
ヨーロッパを越えられないという発想が、
私の原点です。

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